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中等修身教科書 巻四  
第三課 偉大なる自己

中等修身教科書 巻四
自己とは必ずしも自己の身体を以て限るものにあらず。

各自の経験・教育・修養等によりて、自覚の進むに随い、自己の内容も亦拡張されるものなり。

最も小さな自己を有するものは、一身の安逸を貪り、口腹の欲を充たすを以て満足すべきも、苟(いやしく)も教養あるものは、斯かる低級なる自己に止まる能わず
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少なくとも自己の家族の幸福を希い、

父母兄妹の禍福を以て直ちに自己の禍福と感ずるに至るべし。

是れその自己が家族大に拡張せられたるものにして、換言すれば、

自覚の進歩によりて家族の中に真の自己を発見したるものなり。

 

この自覚が一歩を進める時は、その自己は家族内に止まらずして社会的に拡張せらるべし。

社会には大小広狭種々ありて、各人の自己拡張の範囲にも亦無数の差等あり。

近隣又は一町内の利害を以て直ちに自己の利益となす者あり。

或いは一地方の休戚(きゅうせき:喜びと悲しみ。幸と不幸の意)を以て自己の休戚となす者あり。

或いは国家の盛衰隆替を以て自己の責任となすものあり。

或いは世界人類の幸不幸を以て、一身の幸不幸以上に痛切に感ずるものあり。

これ等はそれぞれその自己が地方大に国家大に及至人類大に

拡張せられたるものにして、身を殺して国家又は人類の為に尽すものは、

国家又は人類の中に真の大なる自己を発見したるものなり。

 

之を時間の上より見るも、低級の人は僅かに眼前の快苦を思うのみなれども

教育ある者は過去を回想し未来を翹望(ぎょうぼう: 《「翹」は挙げる意》首を長くのばして待ち望むこと)し、その自己は過去及び未来に迄拡張せらるべし。

かくして遂に現代の社会の幸福を念とするのみならず、

遠く祖先の偉業を思い、遥かに後世子孫の幸福を願うに至るべし。

この境に至る時は、その人は宇宙大にして且つ永遠的なる自己を発見したるものにして、

真に偉大なる人格というべし。

苟(いやしく)も志を立つる者は、眇小(びようしよう:小さい)なる一身の利害に拘泥(こうでい:こだわる)せず、

一時的の快楽に悩まされず、須(すべか)らく偉大なる人格者たらんことを期すべきなり。