以前「参議院 外交防衛委員会(2017年12月7日)」の議事録を投稿しました(アメブロでBAN)。その際にご紹介した
トランプ政権の国家通商会議議長ピーター・ナバロ著「米中もし戦わば」
この著書を違った角度から、三年前の2017年5月に出された日本アルプス電気㈱さんのレポートを一部抜粋します。(日本が過去、中国を侵略した報復だから仕方ないという論調の部分は史実に反し、中国の宣伝戦に加担している為、削除)
この著書を違った角度から、三年前の2017年5月に出された日本アルプス電気㈱さんのレポートを一部抜粋します。(日本が過去、中国を侵略した報復だから仕方ないという論調の部分は史実に反し、中国の宣伝戦に加担している為、削除)
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トランプ大統領がナバロ氏をNTCの議長に任命した際に、「ナバロ氏
はグローバリズムが米国の労働者にもたらす害悪を予知していた」と評価
した。また、昨年ウィルバー・ロス氏とともに発表した通称問題に関するレ
ポート(通称ナバロ=ロス・レポート)でも有名であり、その中では、「北米自由貿易協定NAFTAの結果、米国で70万人の
雇用が失われた」「中国は不正な貿易政策という強力な武器を使って、米国の7万箇所の工場閉鎖に追い込んだ」と主張した。
さらに、ウォール・ストリートジャーナルのインタビューで、オバマ政権のアジア政策に関して、「大声で話しして、小さ なこん棒しか持たない」と痛烈に批判。今の中国の軍事的な侵略はオバマ大統領が原因でもあると批判して いる。そして、米国はレーガン政権時代の「力による平和」構想に回帰すべきだと主張している。これが、トランプ大統領の軍備増強発言にもつながっている。
さて、本題の「米中もし戦わば」であるが、この著者には中国の軍備、軍事力などに関する専門的な記述やもし米中で戦争が起こった場合のシュミレーションが書かれている(ココでは触れない)。
著書の出だし「米中戦争が起こる確率」の中では、「世界史を概観すると、1500年以降、中国のような新興勢力がアメリカのような既存の大国に対峙した15例のうち11例において(即ち70%以上の確率で)戦争が起きている」としている。
中国は第二次大戦後数多くの武力行使を持って勢力を拡大してきている。
1950年チベット及 び新疆ウイグル自治区の征服。インドへの侵略、中ソ国境紛争、1974年に当時の南ベト ナムから南シナ海の西沙諸島を奪い取った。1988年、今度は南沙諸島の領土権を主張、1994年にはフィリピンから ミスチーフ礁を奪取。1995年には第三次台湾海峡危機で米中が衝突、さらに、日本とは尖閣諸島問題でもめている 状況である。
このように歴史を振り返ってわかることは、中国共産党が政権獲得以来60年以上にわたって武力侵略と暴力行為を 繰り返してきたという事実である。
中国の習近平国家主席はその就任演説で、「中華民族の偉大な復興という中国の夢」という言葉を使った。まさに 覇権主義的な発言である。
一方のアメリカの暴力的な現代史と並べてみると、これが非常に危険か取り合わせであることがわかる。 1949年の中華人民共和国建国以来、アメリカは朝鮮戦争、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争という大戦を戦い、イ ラクに二度侵攻し、ボスニア、コソボ、リビア、セルビア、シリアを空爆し、…しかもこれは、アメリカが武力行使し た一部にしかすぎない。
ナバロ氏はこのような歴史を振り返った後で、中国とアメリカがお互いに相入れない正当化の主張を行っているとい う事実がまさに問題なのである。と述べている。そして、どちらも非常に暴力的で、核武装した軍事大国が、両国の 経済交流は拡大し続けているにもかかわらず睨み合っている。解決困難な難問とはまさにこのことである。と分析し ている。
著書の中盤でさらに詳しくこの中国の侵略の真意について述べている。それによると、中国が少なくともアヘン戦争 前のことまで持ち出して領土と東シナ海、南シナ海の海洋権益を拡大しようとしているのは明らかである。同様に、 中国のこうした報復主義的行動が、フィリピン、ベトナムといった近隣諸国との紛争の原因であることも明らか である。・・・この中国の拡張主義がアジアの覇権国になるための攻撃的行動なのか、それとも単に自国の通商路の 保護と国土防衛という正当な防衛行動なのかについては、甚だしい見解の相違が存在する。中国の脅威にさらされている国々から見れば、中国の行動はとても「防衛的」と呼べるものではない。中国の全方位的進出は あらゆる意味で攻撃的行動にしか見えない。と述べている。
こうした見解の相違が引き金となって戦争に発展しかねないというリスクが存在することは間違いのないことであろう 。日本から見ても侵略としか見えないのである。軍事的行動を起こせないと見込んでどんどん領土を既成事実化し てしまう手法は日本にとってはなんとも歯がゆい思いではないだろうか。
このような中国のやり方にはいくつかの特徴がある。決して武力行使をしているわけではないが、年月が経ってみる と飛行場ができ、順次施設にも使用できる準備が着々と進んでいるのは事実である。
このある種中国流のやり方と はなんであろうか。ナバロか著書の中で次のように分析している。
ナバロ氏は、中国の戦術について、ケンブリッジ大学教授のハルパー氏のの論文が最も信頼がおけるとして著書の 中で紹介している。ハルパー氏は、この中国の領土的野望を前進させている効果的「三戦」を挙げている。それは、 心理戦、メディア戦、法律戦である。
■心理戦
この目的は、相手国とその一般国民を脅したり混乱させたり、あるいはその他の方法で色を与え、反撃の意思を挫く ことである。
「外交圧力、風評、嘘、嫌がらせを使った不快感を表明し、覇権を主張し、威嚇する」
さらに「中国は経済を効果的に利用する」と述べている。
たとえば、中国は、日本へのレアアースの輸出を規制 したり日本への観光旅行を禁止したりすることによって、景気低迷に苦しむ日本を威圧し、尖閣諸島に対する 領土要求を認めさせようとしている。同様に、 スカボロー礁やセカンド・トーマス礁といった紛争地域 を取り囲むように大量の民間船を送り込んでいるのは、 圧倒的な数を頼んでフィリピンを恫喝し、フィリピン軍 に退去を余儀無くさせるためである。このようなやり方 は、「包心菜(キャベツ)作戦」と呼ばれている。
■メディア戦
その目的は、国内外の世論を誘導し、騙されやすいメディア視聴者に中国側のストーリーを受け入れさせることであ る。ハルパー氏は、「現在の戦争を制するのは最高に兵器ではなく、最高のストーリーなのだ」と述べているが、中国 のメディア戦はまさにこの格言に従っている。
中国は書籍、映画、雑誌、インターネットなど様々な媒体を通じてメディア戦を行なっているが、中でもテレビに力を 入れ、大金を投じて中国中央電視台(CCTV)を国際的宣伝部隊に造り替えた。2011年にはワシントン支局も開設した 。このCCTVは、西側メディアが報じる前に中国側にいいようにストーリーを流し広めているのである。
■法律戦
法律戦における中国の戦略は、現行の方的枠組みの中で国際秩序のルールを中国の都合のいいように曲げる、あ るいは書き換えることである。
たとえば、「国連海洋法条約に明示されているように、中国は200海里の排他的経済水域内の航行の自由を制限す ることができる」という中国側の主張について考えてみよう。
実は、現行の国連海洋法条約にそんなことは一言も書 かれてはいない。この点について、条約はかなり明快に規定している。
だが、中国は「法的根拠がある」という嘘を これまで繰り返し主張してきた。まさに、「嘘も繰り返せば真実になる」の精神である。 攻撃的「法律戦」には、インチキ地図を使って領土権を主張する方法もある。たとえば、2012年、中国は南シナ 海の紛争地域の多くを中国固有の領土として描いてある地図をパスポートの内側に掲載し、近隣アジア諸国の怒り を買った。
このように著書の中では中国の三戦について説明している。そして、これが中国の用いている新しいタイプの戦争な のであるとしている。
このような戦略をよく表した事実がある。フィリピンとの間で起こったスカボロー礁の奪取である。スカボロー礁は、フ ィリピン・ザンバレス州の沖合115海里、すなわち当然フィリピンの排他的経済水域内である。中国によるスカボロー 礁の奪取は、2012年4月、中国漁船団の侵入によって始まった。フィリピン海軍の艦船が調査し違法な漁猟をしてい たため、フィリピン当局が中国人漁民を逮捕しようとしたところ、中国海警局の監視船数隻が現れてこれを阻止しよう として両者にらみ合いとなった。にらみ合いが続く中で中比両国内で激しい抗議行動が展開された。同時に、中国の ハッカー集団がフィリピンの主要政府機関にサイバー攻撃を開始した。
フィリピンにさらに圧力をかけるため、中国はフィリピン製品の輸入制限やフィリピンへの事実上の観光旅行禁止令 を出した。中国経済に大きく依存しているフィリピンにとっては大きな痛手となった。
2012年6月、アメリカの仲介で、「中比両国は当該地域から撤退し、平和的解決のために交渉する」ことが決まった。フィリピンが取り決めを守って撤退したのに対し、中国はそのまま居座り続けた。7月、中国は、フィリピン人が何世代 にもわたって漁業を営んで来たスカボロー礁の一部を封鎖し、危機をさらにエスカレートさせた。続いて中国は、問題の海域の周囲24キロを禁漁区域とすると宣言したのである。
中国のある将軍が自慢げに「包心菜戦略」と呼んだ戦略を効果的に駆使したのである。 中国海警局に監視船の任務はもっぱら、中国の拡張主義的主張を呑ませるために他国に嫌がらせをすることで、 領有権の主張を推し進めるために軍艦ではなく非軍事船を使うところが、中国のやり方の非常に巧妙で興味深い点 であるとナバロ氏は述べている。
さらに、フィリピンが法律的に立ち向かおうと国際海洋法裁判所に仲裁申請をしても、頑としてその参加を拒絶。 2016年7月に中国の領有権を全面的に否定した判決が出たのにもかかわらず、全く無視をして判決自体を無効だと 主張しているのである。
これが、中国の三戦の実態である。
さて、このようにナバロ氏は中国のアジア地域における侵略拡大に対してアメリカは今後どのように対処すべきなの かについて、いろいろなケースを想定した場合のアメリカのリスクや結果を分析している。アメリカ国内では現在、ア メリカはもう世界の紛争を解決している余裕はないという意見も広まっているが、ナバロ氏自身は、アメリカがアジア から手を引くことは決してアメリカのためにはならないとして、今こそアジア諸国との同盟関係を強化すべきであると 述べている。そして、アメリカが今後取るべき対応として、経済力による平和、軍事力による平和、同盟国を守り抜く という点を挙げている。
■経済力による平和
ナバロ氏は、
- 中国は、通貨操作、違法な輸出補助金、知的財産権侵害、自国の製造基盤を強化し輸出主導型経済成長を促 進するための自国市場のほごなど、数々の不公正な貿易方法に頼っている
- 経済成長と強力な製造基盤が中国に、軍事力の強化及び近代化のために豊かな資源をもたらしている
- 中国は、その優勢な経済力を武器に、貿易や領土問題など様々な問題で日本、フィリピン、台湾、ベトナムなど の近隣アジア諸国を威圧してきた
- 2001年に中国がWTOに加盟し、アメリカ市場に自由に参入できるようになって以来、アメリカは7万箇所以上の 製造工場を失い、経済成長率は半分以下に縮小した
- 経済成長の減速と製造基盤の弱体化により、アメリカにとって、自国の安全保障を確実にするとともにアジア同 盟国への条約義務を遂行するに足る軍事力の規模と質を維持することは次第に困難になりつつある
対中貿易の不均衡の是正はたしかに、アメリカと味か同盟国の経済を強化し、それと同時に中国の軍拡資金調達 能力を弱体化させるための最も直接的な方法の一つである。しかし、この方策を実行するには様々な経済的・政治 的・イデオロギー的障害が伴う、としている。
また、貿易不均衡是正だけではなく、第二の戦略として、「税制改革」を挙げている。法人税が世界一高いことが、ア メリカの製造業と雇用をどんどん海外に流出させている原因となっている。 第3の戦略として、現在中国に略奪されるがままになっている、軍用及び民間の知的財産権の保護を大幅に手厚く し、企業秘密や軍事秘密の窃盗を中国に一切許さないようにすることであると述べている。
このようにアメリカ自身の経済力を高め総合国力と抑止力を高めることが必要であり、それには政治的合意が必要 であると主張している。
ナバロ氏はこの自身の考えをトランプ大統領の政治力を通じてまさに実行しようとしているように思える。
これまで見てきたように、ナバロ氏の考えは実際にトランプ大統領自身の言葉として発しられているのである。
■軍事力による平和
軍事力による平和をアジアにもたらすために必要とされる軍事力とは、中国が直接的な脅威と感じるほどではない が、その一方で、中国軍の最大限の威嚇にもビクともしない程度の軍事力である、としている。
アメリカの戦略の三本柱
- 圧倒的な戦略によって制空権、制海権を確保している空母戦闘群
- 第1、第2列島線上に数か所配置されている、攻撃の起点及び後方支援の拠点となる大規模な基地
- 最先端の「C4ISR」システム(指揮、統制、通信、コンピュータの4Cと、情報のI、監視のS、偵察のRを表す)によっ て、戦場の状況認識を可能にする人工衛星システム
- アメリカの非常に高額な空母戦闘群及び基地を破壊し無力化する能力を持った、比較的安価な非対称兵器を 大量生産する
- 将来的にアメリカ軍を量的にしのぐことを目的に、空母戦闘群を大量生産する
- アメリカの人工衛星システムの破壊及び中国自身の人工衛星ネットワーク構築によって制宙権を握り、アメリカ の「C4ISR」優位を打破する
ナバロ氏は著書の最後を次のように締めくくっている。
急速に台頭する中国によって引き起こされた深刻な安全保障上の脅威に平和的に対抗するには、 第一に、経済的、軍事的その他の対抗策について政治的な合意ができなければならない。だが、自由で開かれた民 主主義国家にとってこうした政治的合意に到達するのは至難の業である。経済的利害は対中貿易との関わり方に よって異なるし、利益団体は大義のために団結することにより対立し合う道を選びがちである。独裁的な中国政府は 外国の中国報道に強力なメディア統制を敷き、西側のジャーナリストや大学は一貫して自主規制を行なっている。 この分裂状態こそが、「対中戦争の可能性について考えるべき」という政治的合意の形成を西側の民主主義国家、 特にアメリカで長い間阻んできた元凶である。いうまでもないことだが、現実から目をそらすというこうした状態がこの まま続けば、物語の結末はわれわれ全員にとって苦しいものになるだろう。繰り返しになるが、この本はあくまでもアメリカ側から見た見解であるが、トランプ大統領箱の見解に大いに影響され ているということを知るべきである。 巻末の解説において防衛省防衛研究所の飯田氏が日本の安全をどう守るという題で日本の防衛戦略について簡 略に述べているのは興味深い。これには今後議論が高まってくるであろう憲法改正など様々な問題が関わりイデオ ロギー的論議にもなるのでこのような私的なレポートでの記載は避けることにするが、本書はぜひご一読願いたい。 当然のことながら米中戦争など起こり得ない、起こし得ないと考えたいが、世界を取り巻くナショナリズムの波を考え た場合に、様々な議論をするべきであろうことだけは強く感じた。 さらに感じたことは、北朝鮮問題が深刻になっている今、日本も事実を直視し政治的合意を得る努力をそろそろ始め るべきであると考える。最後に掲載したスクランブル発進の回数の推移をみると、その重要性は明らかである。日本 も現実から目をそらすことはもうやめるべきである。
もちろん、今ならまだ間に合う。戦争よりも遥かにマシな、遥かに平和的な方法で問題を解決する道はある。真実が 明らかになり、リスクの大きさ、壊滅的被害の及ぶ範囲の大きさを中国人とわれわれの双方が完全に理解できるよ うになりさえすれば、希望は見えてくる。
平和が栄えるためには、この真実が自明の理となる必要がある。この真実を探求することこそが本書の目的だった 。この精神に。則って最後に、スペインの哲学者ジョージ・サンタヤーナの格言「過去を記憶できないものは、過去を 繰り返すよう運命付けられている」を逆にした言葉を掲げ、本書を締めくくることにしよう。「将来どんなことが起こり得 るかを全て想定できる人間には、その中から最善のものを選び、最悪のものを避ける、最上のチャンスが与えられ ている」